愛知県 豊田市美術館「クリムト展」& 映画「クリムト」

もうだいぶん前に終わってしまいましたが、せっかく愛知県まで観に行ったので豊田市美術館で開催されていた「クリムト展 ウィーンと日本1900」展('19.7.23~10.14まで。観覧料1600円)の感想も少し残しておきたいと思います。
この展覧会は、クリムトの没後100年を記念しての展覧会で、日本では過去最大級の回顧展だそうです。
25点以上の油彩画に、複製ですが原寸大の「ベートーヴェン・フリーズ」が展示されており、見映えがしました。
私がこの展覧会で良かったと思った点は、単なる画業の紹介ではなく、クリムトの家族や生活環境について目を向け、そういう視点から作品を観れるようにしてあったことです。
クリムトは自分の私生活のことに関してはあまり話したがらなかったこともあり、画家本人についてはあまりよく知らなかったのですが、今回の展覧会ではクリムトの家族についての展示から始まっていました。

クリムトは7人兄弟の長男で、父は58歳で死去しています。
母と姉は精神が不安定で、頼りにしていた弟も早くに亡くなったため、自分の家族に加え弟の家族もクリムトが支えていかねばなりませんでした。
「ヘレーネ・クリムトの肖像」は亡くなった弟のエルンストの娘の肖像画です。
とてもかわいい少女の横顔が描かれていますが、その絵からクリムトの姪に対する愛情と哀れみが感じられます。
エルンストの死後、クリムトがヘレーネの法律上の保護者になっています。
クリムトは多くの女性と付き合っていましたが、生涯独身で通したのも養うべき家族がたくさんいたことが理由の一つにあるのかもしれませんね。
そのわりには、クリムトの子どもは最低でも14人もいるのには驚きました。
そのうちの何人かはグスタフという名前だというのにもびっくりです。
クリムトの絵はエロティックだとよくいわれますが、エロスは生の象徴でもあります。
生と死が周りで繰り返されることで起こる精神の緊張を、クリムトは絵画で緩和させていたのもかもしれないなと思いました。

今回の展覧会の目玉でもある「ユディトⅠ」は、ユディトの上半身のバックは優しいグリーン系で、まるでホロフェルネスの血を浄化させて水のように吸い上げ、黄金の植物を成長させ実を実らせているようです。
それは死からの再生を意味しているとも思えます。
ユディトの表情を恍惚と捉える風潮もありますが、この表情は自分の行為を現実とは受け止めておらず、半分夢の中のできごとのように感じているように私には見えます。
同じ題材のカラヴァッジオやクラナハの絵とは違って、クリムトのユディトはどこか他人事で、死からの再生を希求しながらもそれは人間にはどうしようもないというクリムトの葛藤が見えるような気がしました。
そんな葛藤だらけのクリムトを支えたのがエミーリエ・フレーゲです。
彼女はクリムトの亡くなった弟エルンストの妻の妹なのでクリムトとは親戚関係でもあります。
エミーリエがまだ若い頃から面識があり、クリムトは「17歳のエミーリエ・フレーゲの肖像」を描いていました。
17歳にはちょっと見えないぐらい大人っぽく見えますが、大人になってからの肖像画とも違っており、大人になってからの方が若い感じがします。
この肖像画の時のクリムトは、ジャポニズムの影響を受けていたのか、額が酒井抱一を参考にしたような絵柄でした。
クリムトはエミーリエを信頼していたのでしょう。
エミーリエと一緒に行ったアッター湖畔の風景画を多く残しています。
彼女と一緒の時が一番落ち着いたのでしょうね。
ちなみに、エミーリエはクリムトの死後も前述したエルンストの妻であった姉と一緒にブティックを続け、姉が亡くなりブティック閉鎖後は姪であるヘレーネと一緒に暮らしたそうです。
クリムトはそのまま落ち着くのかと思いきや、また女性を描き出します。
金を多用した装飾的な作品から、今度は多彩な色を使った作品に変化しています。
これらのクリムトの晩年の作品を観ていると、まだまだ本人は進化するつもりだったのだろうなと思いました。
老いや死を描かずにはいられなかったクリムトの最晩年に近い作品が「赤子(ゆりかご)」だったのは、明るい希望を描きたかったのだと思われ、画家にとっても良かったのではないかと思いました。

クリムトに関連して、ドキュメンタリー映画「クリムト エゴン・シーレとウィーン黄金時代」という映画も劇場で上映していたので観てきましたが、これはちょっと物足りなかった。
いろんな専門家がクリムトやシーレについて好きなように語っているのですが、そんなに深いことも話しておらず寝そうになってしまいました(苦笑)。
ドキュメンタリーじゃなく、ドラマ仕立ての方が面白いかな。
いろんな作品を大画面で観れたのは良かったですけどね。
生老病死という人間の根源的な不安を、美しい装飾や色彩で飾って魅せるクリムト作品は、私たちを惹きつけます。
クリムトはなぜそれらの不安を見つめ続けたのかという疑問に対し、一つの答えを提示してくれたような展覧会でした。
興味深く面白かったです。
豊田市美術館
住所:愛知県豊田市小坂本町8-5-1 TEL:0565-34-6610
開館時間:10時~17時30分(入場は17時まで)休館日:月曜(祝日除く)、年末・年始、展示替え期間

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