兵庫 姫路市立美術館&姫路文学館「川端康成と美のコレクション展」

姫路市立美術館と姫路文学館共通で開催されている「生誕120年 文豪川端康成と美のコレクション展」('19.9.14~11.4まで。2館分観覧料1400円)を観てきました。
この展覧会、面白かった~!
美術部門と文学部門を2館で展示していました。

美術館部門は、川端康成のコレクションや関係のあった画家の絵の展示がメインです。
康成は「いいものに出会ふと自分の命を拾った思ひがする」というほど美術や骨董品が好きだったようです。
そのコレクションは埴輪から近現代の日本画・洋画・工芸品までと多岐に渡っていました。

骨董品などは自分が楽しめれば二流三流でも良いというのではなく、一流でないと自分にとってプラスにならないというような高い美意識をもって集めていたようです。
確かに池大雅の「十便図」や与謝蕪村の「十宜図」、浦上玉堂の「凍雲篩雪図」(文学館で展示)はいずれも国宝ですものね。
なかなか個人で国宝の絵画を3点も集めるのは大変だと思います。
この3点を手に入れることができて、康成は大喜びだったそうですよ。
私は池大雅の「般若心経書巌中観音図」が良かったです

字も伸びやかでお経ですがキチキチとした苦しさがないですし、絵は字を引き立たせ重みを与えてました。
他にも池大雅の作品がありましたが、池大雅の作品は大らかな印象を受け、気持ちまで広がる気がしますね

工芸品は、交流があった黒田辰秋の作品が圧倒的に多かったです。
黒田辰秋さんは漆芸家で、地の木目をすごくきれいに見せる箱や器が良かったです

去年(2018年)だったか京都の「えき」美術館で黒田さんの展覧会がありましたが、そこで展示されていた作品と似ている棗が今回も展示されていました。
絵画では、古賀春江の作品が多くびっくりしました

古賀春江と親しかったのですね。
締め切りに追われてしんどい時にこの絵を見たら元気になるだろうということで、他人様からプレゼントされたという「朗らかな春」という作品は、なんとなくこわい絵で、これを見て本当に元気になるだろうかと思いました。
もう1枚康成の家に泊まりに来た女性客から怖がられている絵もありましたし、康成が「病的である」と言った「そこに在る」という作品もありました。
「公園のエピソード」という作品は、パウル・クレー風のパステル調の絵でメルヘンチックで、私は今回の古賀春江の作品の中ではこれが一番好みでした。
岩崎勝平という画家は私は知らなかったのですが、「読書」や「島娘」などの作品が美人であったり、存在感があったりして良かったです。
牧進の「鯉」や「秋一日」はすごくきれいでした

とくに「秋一日」は降り始めか止みかけかわかりませんが雨の描写がすごく良くて、しばらく見入ってしまいました

村上肥出夫の作品はものすごい厚塗りで、老年になっていた康成はこのパッションというかエネルギーに圧倒されたのではないかと思いました。
あれだけ厚塗りなのに抽象画にはなっていないところがすごいとは思いますが、ずっと見れる作品ではありませんでした。
熊谷守一のシンプルで味のある作品で、お口直しができたのが良かったです(笑)。
そして絵画部門で最も良かったのが東山魁夷の作品です。
魁夷の絵はどれも美しい~


魁夷が康成の本の装丁を手がけたことをきっかけに親交を結んだようです。
魁夷は、康成の連載小説の挿絵もてがけたそうですが、康成が遅筆で締め切りに間に合わず、挿絵が先で後から文章ができたこともあったそうですよ。
どっちも難しかったでしょうね。
そんな苦労を分かち合った仲ですので、2人は家族ぐるみの付き合いをしていたようで、康成の入院時のお見舞いやノーベル賞のお祝いに魁夷は自身の作品を贈っています。
康成は嬉しかったでしょうね。
魁夷の作品を観ているだけで私の気持ちも晴れるような気になりました


次は文学館です。
こちらは、康成の人物像や川端文学、康成と交流のあった文学者についての展示でした。
康成は22歳の時、カフェに勤めていた伊藤初代という15歳の女性と婚約します。
結局破談になってしまうのですが、伊藤初代さんからの手紙10通と未投函だった康成の手紙が全部展示されていました。
始めの頃は、初代さんの手紙は「!」が多いキラキラと楽しそうな様子が伝わる内容でした。
ですが、康成には言えない「非常なこと」が起こり、もう一緒になれないと書かれた手紙が届きます。
初代さんの手紙に対して康成の方から返事は未投函の手紙1通しかありませんが、それを読むと、初代さんの言うとおりにするし、初代さんの実家の了承も取るから心配せずに今の家を出るようにとしきりに書いてあり、事態の打開を図ろうとしたことがわかります。
でも初代さんの最後の手紙では「恨みます」という言葉が何回も出ており、2人は別れてしまいましたが、康成はその後もしばらく初代さんのことを気にかけていたようです。
その時の傷心を文章に記して、文学として昇華させましたが、このことはかなりの影響を康成に与えたことが手紙を読んで実感できました

早世した康成の父が康成に残した書の「要耐忍」という言葉は、康成にとって小さい頃からの戒めとなっただろうなと想像でき、きつかっただろうなと思いました。
両親が早世したため祖父母や親戚に頼って生きてきた康成は、あまりわがままを言うことができなかったゆえに、小さい頃からカフェで働かされている伊藤初代に同情し、結婚して自分のもとで自由を謳歌させてあげたいと思ったそうです。
若かりし日の康成は、初代さんとともに自分の居場所を作りたかったんだなと思いました。
太宰治の「川端康成宛書簡」も展示されていました。
太宰の「晩年」を芥川賞受賞させてほしいという内容の手紙でした。
手紙といっても巻物型で、かなりの長文です。
読みやすい字で丁寧に書いてありましたが、康成がこれを読んでどう思ったか興味がありますね。
実際には小説の良し悪しではなく、違う理由でノミネートもされず受賞できなかったのですけどね。
手紙は横光利一や林芙美子、坂口安吾からなどいろいろ残っていました。
北原白秋や若山牧水、尾崎紅葉などの有名文学者の書も多数。
本人の書もありました。
康成の字は書道の字も原稿の字もきれいです。
誰かからの手紙に「字がうまくなったから手紙が増えたね」みたいなことを書かれてましたが、若い頃から十分きれいだと思いました。
それにしても康成はきちんとした性格だったのでしょうね。
初代さんの手紙にしろ、その他の手紙にしろ、もらった手紙をきちんと保管されています。
いただいた書や絵画なども、誰からいただいたかを箱に書いています。
今ではその箱書きのついた箱だけでも値打ちがありそうな

康成や他の文学者の写真も展示されていましたが、康成の若い頃の写真はめちゃイケメン。
坂口安吾の部屋はぐちゃぐちゃ(苦笑)。
三島由紀夫は自宅(?)できりっと椅子に座ってポーズ。
瀬戸内寂聴は与勇輝の人形のようにおぼこい時の写真でした。
映画の「伊豆の踊子」の撮影時に、康成が吉永小百合に会いに行った写真もありました。
ファンだったそうです。
岡本かの子の顔写真もありました。
康成は岡本かの子のことをかっていたみたいで、遺稿の中に書きかけの岡本かの子全集の推薦文があったそうです。
ノーベル賞のメダルも展示されていました。
17歳の時の日記に「おれは今でもノベル賞を思はぬでもない」と書いていて、実際に受賞するのですからすごいですよね。
ちなみにノーベル賞の推薦文は康成に頼まれて三島由紀夫が1961年に書いたそうです。
それ以降康成は毎年候補にあがりましたが、受賞は1968年。
実は三島由紀夫も1963~65年、1967~68年にノーベル賞候補になっていたそうです。
三島由紀夫はノーベル賞を康成と張り合うつもりだったのか、それとも本人はあずかり知らぬことだったのか。
三島の推薦人は誰だったのか。
いろいろな話はでていますが、真相はどうなのか興味は尽きませんね。

文学館の南館では、康成のノーベル賞受賞記念講演の「美しい日本のわたしーその序説」の全文(文章の印刷)が展示されていました。
道元や明恵の話から始まり、東洋の精神や心について述べており、結構長くて難しい

これをよく同時通訳できたなぁと思いました

この中で一休禅師が2回自殺を考えたことがあったとあり、自分は自殺はいけないことだと思っているが、周りには若くして自殺している人が何人もいるというような内容がありました。
こんなめでたい記念講演で自殺の話をするなんて、康成の意識の中にこの頃すでに自殺に対する願望があったのではないかと思われました。

(写真はゲーム「文豪とアルケミスト」よりキャラクター川端康成の部分)
康成は72歳でガス自殺しています。
遺書はなかったのでその理由はわかりませんが、康成は面倒見が良かったのか、やたらと友人・知人の弔辞を読んだり、葬儀委員長をつとめているのですよね。
これだけたくさんの人を見送ると、取り残され感をもってしまいますし、自分がどのような最期を迎えるのか怖くなってもおかしくないと思います。
康成は自殺の4日前に、ガス自殺した知人の弔問に行っています。
これを見て自分も同じ方法で自分の生に決着をつける決心をしたのではないでしょうか。
康成の祖父も73歳とほぼ同じ年齢で亡くなっていますし、決心に拍車をかけたかもしれませんね。
でも、やっぱり仕事を片付けないで逝ってしまったのは、康成らしくないです。
遅筆だとはいえ、あれだけたくさんの小説を書いてきたのだから、遅くなってもきちんと書いてきた証でしょうから。
川端康成をまるっと全部紹介した展覧会でした。
美術と文学が融合されており、とても興味深く観れました。

姫路市立美術館
住所:姫路市本町68-25 TEL:079-222-2288
開館時間:10時~17時(入場は16時半まで) 休館日:月曜(祝日を除く)、祝日の翌日、年末年始(12月25日~1月5日)、展示替えなどで臨時休館あり
姫路文学館
住所:姫路市山野井町84番地 TEL:079-293-8228
開館時間:10時~17時(入館は16時半まで)休館日:月曜日(月曜が祝日の場合は翌日)・年末年始

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