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映画 「黄金のアデーレ 名画の帰還」

 12月の初め頃、「黄金のアデーレ 名画の帰還」を観てきました。

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 この映画は、ナチスによって略奪され、その後はオーストリア所有になっていた「アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像」を含むクリムトの名画5点を、肖像画のモデルであるアデーレの姪のマリア・アルトマンが、オーストリア政府相手に裁判を起こし取り戻したという実話を元に作られた映画です。

 この前観た「ミケランジェロ・プロジェクト」は、終戦間際にナチスから芸術品を取り戻した話でしたが、この映画はそれに続くようなお話でした。
 映画の中で、ユダヤ人たちが迫害を受け、マリアが命からがら他国に亡命した経緯も描かれており、その当時の残酷な現実とともに、ユダヤ人の怒りや悔しさも伝わってきました。

 マリア・アルトマンを演じたヘレン・ミレン、かっこ良かったな~
 政府を相手にピンと背筋を伸ばし、ユーモアも持ち合わせながら凛と自分の意見を述べるマリアに感動しました

 そのマリアを助けるのが、オーストリアの作曲家アルノルト・シェーンベルクの孫であるランディ・シェーンベルク弁護士です。
 まだ若手弁護士だった彼が、国を相手に戦う決心をしたのは、自分の出自に誇りをもったからでしょうね

 話は逸れますが、私は以前から祖父のシェーンベルクの方に興味を持っていました。
 というのは、19世紀末のオーストリアの画家リヒャルト・ゲルストルを通してシェーンベルクを知ったからです。
 ゲルストルとシェーンブルクは友人関係だったのですが、ゲルストルはシェーンベルクの妻マティルデと駆け落ちします。
 その年の内にマティルデはシェーンブルクの元に戻るのですが、ゲルストルは手元にある自分の作品を燃やし自殺してしまいます。

 自分の妻と友人に裏切られたのに、戻ってきた妻を受け入れたシェーンベルクの気持ちってどうだったのだろうとずっと思ってました。
 そしたら、この映画の中でランディが「祖父の嫌いなものは妻(=祖母)と言っていた」というようなセリフがあり、やっぱりシェーンベルクはマティルデのことを許していなかったのだなと、長年知りたかった解答の一つを得た気がしました

 ナチスによって簒奪されたものは財産だけではないでしょう。
 その奪われたもののごく一部であっても取り戻せたのは本当に良かったと思います

 ですが、マリアに返還された5枚の絵画、「アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像Ⅰ」、「アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像Ⅱ」、「ブナの林」、「リンゴの木」、「アッター湖のウンターアッハの家々」は、ベルヴェデーレ宮殿にあるオーストリア・ギャラリーではもう観れないのですね
 アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像は、NYにあるエスティ・ローダー社のノイエ・ガラリエで観れるみたいですけど。
 私は「ブナの林」が結構気に入っていたのですけどね。
 オーストリア政府は、もっと早くに示談に応じていれば良かったのに。
 裁判に負けてから交渉しても遅いですよ

 マリアが裁判に勝って伯母の絵を取り戻したのは2006年。
 戦争の痛手というのは、60年や70年ぐらいでは解決できない深いものなのだなと改めて思いました。

黄金のアデーレ 名画の帰還 2015年 アメリカ・イギリス合作 ギャガ サイモン・カーティス監督 109分 
「アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像Ⅰ」の豪華なダイヤのネックレスって本当にあったのねと思った、Ms.れでぃの勝手な映画採点:75点
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この映画

いいな、見たいなと思ううちにもう大晦日。私、寒くなると映画館行ったら風邪引きそうで、億劫になるのです。
これ、実話ですもんね。
新聞記事になってたのは、覚えているんです。
もう10年くらい前の話だったのですね。

戦争の傷跡、なかなかなことでは消えないですよね。
今又、新映像の20世紀をNHKで見てますが。
改めて戦争の恐ろしさ、人が狂気にとらわれていくさま、弱い人たちがたくさん犠牲になることなど、見ていて本当に恐いですね。

一年もたたない内に戻りはったんですねえ。
なんなんだろう?適当にやっとけば良かったのに、わざわざ出奔せんかてと私は思うのであります。

今年も仲良くしていただいてありがとうございました。
来年もどうぞよろしくお願いいたします。
良いお年を旦那様、猫ちゃんとお迎えくださいね。

あっという間

私も映画や展覧会に行ってすぐに記事にできればよいのですが、ダラダラした性格なので、ちょっとほっといたらあっという間に月日が経ってしまいます。
この記事も1週間前ぐらいに書こうと思っていたのに大晦日になってしまいました。

ゲルストルとマティルデの件は、2人の間に何があったのかの詳細は私は知りませんが、ゲルストルの描いた絵を見ると、極端なところがあるかなり激しい性格だったのではないかと想像しています。

ところで、このマティルデさん、作曲家で指揮者のツェムリンスキーの妹なんですよ。
ツェムリンスキーは、作曲家のマーラーの妻であるアルマの音楽の師だった人物です。
アルマに恋をしていたとも言われています。
アルマ・マーラーは、クリムトの「ダナエ」のモデルだとされています。
19世紀末のウィーンは、音楽と美術が幾重にも交差しており興味深いのですよね。
でも、マーラーもシェーンベルクも私には理解できない音楽ですが(苦笑)。

こんなことを書いていたら、またウィーンに旅行に行きたくなりました。
でも、今ヨーロッパは政情が不安定で行けない。
今また世の中が不安定になり、戦争の火種がくすぶっていますが、やっぱり戦争は今だけでなく、後世にも迷惑をかけるものだということを世界中の人間が認識すべきだと思いますね。

コメントなのに長々と書いてしまいました。
こちらこそお世話になりありがとうございました。
来年もよろしくお願い致します。
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主に関西で開催されている展覧会を観に行っています。
ゆるゆる感想を書いていきたいと思います。
ローカルネタになりますが、訪問していただけるとうれしいです。

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