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大阪 国立国際美術館 「ジャコメッティと」展

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 国立国際美術館では、コレクション展として「ジャコメッティと」展が前期・後期に分かれて開催されています。
 前期('19.5.25~8.4)の「ジャコメッティとⅠ」では、ジャコメッティと親交を持ち、モデルとなった哲学者の矢内原伊作から見たジャコメッティについての考察、後期の「ジャコメッティとⅡ」(8.27~12.8。各観覧料430円)では、ジャコメッティの時代から更に超えて現代までの表現について紹介する展覧会となっています。

 「ジャコメッティとⅠ」ではメインはジャコメッティですが、「ジャコメッティとⅡ」ではメインは他のアーティストの作品です。
 私はジャコメッティについての感想を書きたいと思います。

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 今回の展覧会は、国立国際美術館がジャコメッティの矢内原伊作像をコレクションに加えたことから企画されたそうです。
 矢内原伊作(やないはらいさく)は、はじめは矢内原の方からジャコメッティに面会を申し込み、会ってもらえることになったのですが、ジャコメッティに気に入られモデルになりました。
 ですが、ジャコメッティは像を作っては壊すことを繰り返すため一向に完成に進まず、矢内原の留学期間の期日が過ぎてもモデルから解放してもらえず、ようやく日本に帰れたと思ったらジャコメッティからフランスに戻ってくるよう再三の要請がきます。
 そのため、矢内原は夏休みなど少しまとまった時間が取れるとフランスに行き、ひたすらモデルを務めていたので、1956年から1961年の間、頻回に渡仏することなりました。
 その辺りのことは、矢内原は手記に記し、本として出版していますし、「ジャコメッティとⅠ」の会場では、日本で学生に向けて講演した折の肉声の記録が流れていました。
 それだけ長い期間モデルを務め、かなりの写真やデッサンをしたにもかかわらず、結局最後まで完成に至ったヤナイハラ像はわずか2体のみだそうです。

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 ジャコメッティの作品は、細長く肉をそぎ落としたような作風で、全くリアルには見えないのですが、本人は「自分の見るものを厳密にありのままを描く。できる限り客観的に。結果は常に主観的になっているが、僕の絵は古風(トラディショナル)だ」と言っています。
 凡人の私からすればどんな見え方をしているのか不思議ですが、刻一刻と進んでいる時間軸の中で厳密に写実を追求すると逆に抽象的にならざるをえないのかもしれません。

 サルトルは、ジャコメッティは絵に向けるような心的な距離を彫刻にも用い表現したというような難しいことを論述していましたが「空虚とゆるめられた充実の連続から不連続まで全てを描きたい」とジャコメッティは思っていたのではないかという考察は、ヤナイハラ像を見て感覚的になるほどと思いました。
 とはいえ、岡本太郎の問いに、ジャコメッティは「いま、僕は何をやっているのかてんでわからない。もう2~3年たったら何か本当のものができるだろう」と答えているように、ジャコメッティ自身はそこまで意図して制作していなかったのではないかと思います。
 何も考えず興味のあるものをひたすら形に残そうとするが、昨日と今日、あるいは5分前と1分前でも違いが生じる。自分の記憶の印象も残っているため整合性が取れずなんか違和感を感じて造り直す、これの繰り返しだったのではないでしょうか。
 そう考えると、ジャコメッティの中で、完成というのは本当はなかったのではないかと思います。
 ただどこかで折り合いをつけないと、精神に影響がでてしまいます。
 現に、矢内原がいない間、ジャコメッティはかなりの焦燥感を覚え、精神が不安定になっていたようです。
 サルトルは「知覚以上には精確になるまいとすること。知覚の不完全の下にある存在の完全を暗示する」とジャコメッティについての論文で書いていましたが、それを意識することが精神の崩壊を防ぐ方法であり、逆に、目指す完全を表現する方法につながるのではないかと思いました。
 
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 ジャコメッティの作品は、人や動物などが多いように思います。
 生きているものを完璧に表現することは不可能と思いますが、ジャコメッティの興味は静物ではなくやはり生物だったのでしょう。
 作品に完璧を求めたのではなく、好きなものを追求せずにはいられない純粋さが、ジャコメッティの特性なのかもしれません。
 その純粋さに矢内原は逆に興味を持ち、相互関係が生まれたのかもしれないなと思いました。

 サルトルの論文やジャコメッティのインタビュー記事などは、展覧会場に参考資料として置いてあり、自由に読むことができます。
 面白いのでお時間があれば読んでみてはいかがでしょう。

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 展示してある矢内原の胸像は、体に比べ、顔はしっかりとリアルでブレがあまりないように思えます。
 誠実にジャコメッティと向き合った矢内原のことを、ジャコメッティはこのように見ていたのだなと思いました。

国立国際美術館
 住所:大阪市北区中之島4-2-55 TEL:06-6447-4680
 開館時間:10時~17時(金曜は19時まで。入館は閉館の各30分前まで) 休館日:月曜(月曜が祝日の場合は翌日休館)、展示替え休館あり

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Author:Ms.れでぃ
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